プロデューサー

奥田 充一 氏

デザインの力で、世界が認める新しいものづくりのまちへ

奥田 充一 氏

産業構造の変革や生産拠点の海外流出に伴い危機的な状況にさらされている日本の中小企業。 しかしこのピンチを、奥田氏はこう考える。「世界市場でのし上がっていく、千載一遇のチャンス」。成功をつかみとるカギは「デザイン」にある。

大量生産型から知識集約型へ。
産業の転換期を、企業はいかに乗り切るか。

これまでに何度か八尾市で講演の機会をいただいたことがあります。その時にお話したのは、世の中が産業資本主義社会からポスト産業資本主義社会へ移行していることについてでした。 産業資本主義社会は、安い労働力で利益を生む大量生産の社会です。しかし1980~90年代頃から大企業は生産現場を労働力のより安価な新興国に移し、先進国は知識集約型のポスト産業資本主義社会へと転換していきました。「額に汗して働く」のではなく、「脳に汗をかいて」知識や知恵で他にはない新しいものを創造して利益を得るのです。新しい社会への転換が進んでいるのがアメリカで、アップル社などは知識集約型の企業の代表だと言えるでしょう。 このような時代にあって、日本は未だに知識集約型のポスト産業資本主義社会への脱皮ができていません。八尾市の中小企業も例外ではありません。しかし、八尾市の企業にはこれまで培ってきた技術・知識の蓄積があります。これらの企業の資産を活かして、これからの時代に求められる付加価値の高い知識集約型商品・体験型のサービスを開発していきます。そして八尾市の産業を知識集約型へと転換させたいというのが、このたびのデザイン・プロデュース事業「STADI」の目標です。

もののデザインから体験のデザインへ。
利潤を生むチャンスも拡大。

新しい社会への転換をリードする力のひとつが「デザイン」です。今、デザインの概念が変わってきていて、ものの見た目の良さだけではなく、使い心地や使って得られる満足感などの体験もデザインの領域になってきました。そしてビジネスでは、生産・流通・販売・消費まで、サービスや顧客満足も含めてビジネスの体系をトータルにデザインすることが重要になってきました。

トータル・デザインのメリットは、利潤を生む機会の拡大です。たとえば、低価格の家具やインテリアを展開しているIKEAは、商品で生まれるバリュー以上にロジスティックを工夫することで利潤を生んでいます。ウェブサービス会社のAmazonは、インターネットで市場を世界に拡大することで、需要の少ない専門書や人気のない著作でも利益を上げることを可能にしました。ものをつくって納品するだけでは利潤を得るのは1度ですが、トータルで考えるとさらに利益を上げることができるのです。

今回のSTADIでは、こういったビジネスの体系をデザインすることについても考えていただきたいと思っています。もちろん、今あるものづくり産業を新しいビジネスモデルに変えていくには時間がかかります。しかし、大きな目標を抱くことが、変革への第一歩になるのです。

これからの時代は、差異こそ価値。
世の中にない、自社ならではのものづくり。

デザイン・プロデュース事業を成功させるポイントは2つあります。 1つは、オリジナリティに対して強い信念を持つことです。ポスト産業資本主義社会では、商品の大量生産ではなく多様化が求められます。そこでは、他にはない新しいものを創造すること、差異こそが価値なのです。わが社ならではの強みを最大限に活かして世の中のどこにもないものをつくれば、それは市場で大きな力になるでしょう。

もう1つは、時代のコンテキストを読むことです。新しい商品やビジネスモデルをデザインする時、みなさんは時代のトレンドを読もうとされるのではないでしょうか。トレンドは短いスパンで変わります。新商品ができる頃にはブームが去っているかもしれない。50年100年200年と企業活動を続けていくためには、時代がこれからどう変わっていくか、その文脈=時代のコンテキストを読み解いて一番大切な価値観を見つけ出すことが大切です。もちろん簡単なことではありませんが、常に時代の大きな流れを読み解き10年後、20年後の自社のあり方を日常的に見据えていく努力は必要ではないでしょうか。

今こそ、中小企業の活躍のチャンス。
夢を持ってチャレンジして欲しい。

八尾市の企業には、よく勉強されていて、チャレンジブルで意欲的な経営者が多い印象です。従来のものづくりでは新しい時代を乗り切れないという危機感を抱いておられますし、中でも若い世代の経営者には「親父を超えたい」という熱い思いも感じられます。 また、大量生産から多様性へのニーズのシフトは、多品種少量生産に柔軟に対応できる中小企業の強みです。八尾市の中小企業がそれぞれオリジナリティのある商品をたくさんつくり出していけば、ユーザーにとってここは選択肢が広がる魅力的なエリアになるでしょう。今やマーケットはワールドワイドに展開していますから、八尾市を世界と取引するビジネスエリアにすることも不可能ではありません。 大きすぎる夢でしょうか? 私はそうは思いません。アップル社だって小さなガレージからスタートしたのです。彼らがここまで大きくなったのは、大きな理想を掲げていたからでした。日本にも「夢なき者に成功なし」という吉田松陰の有名な言葉があります。どうか大いなる夢と理想を持って、これからの時代をつき進んでください。


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